飲食店の連続勤務14日禁止・11時間インターバル|労基法改正への備え
2026.08.05

「法案は見送られた。だからうちには関係ない」──その判断が危うい
飲食店を経営していれば、2026年通常国会への労働基準法改正案の提出が見送られたという話を、すでに耳にしているかもしれない。だが「先送り=関係ない」と捉えるのは、問題の本質を見誤る入口だ。連続勤務14日禁止と勤務間インターバル11時間という論点は、いまも審議の俎上に残っている。そしてこの2つは、シフトで店を回す飲食業のオペレーション設計を、根本から問い直す話なのだ。

本記事の結論
法案提出は見送られたが、改正の方向性そのものが消えたわけではない。連続勤務の上限規制と勤務間インターバルの義務化は、施行されれば飲食店のシフト運用に直接効いてくる。いま必要なのは、慌てて人を増やすことでも、施行を待つことでもない。今のシフト表に「14日連続」「インターバル11時間未満」が何件埋もれているかを可視化し、構造から手を打つことだ。これが、改正を待たずに着手できる最も現実的な備えである。
連続勤務14日禁止とは──飲食店の「2週続けての土日出勤」が引き金になる
連続勤務14日禁止とは、14日以上の連続した勤務を法律で禁じる方向の議論を指す。これは厚生労働省の「労働基準関係法制研究会報告書」で示された論点の一つだ(厚生労働省)。飲食店にとって他人事でないのは、現行ルールのままでも長期連勤が容易に生まれてしまうからである。
現行の労働基準法でも「12連勤」は珍しくない
現行の労働基準法第35条は、使用者に毎週少なくとも1回の休日を与えることを義務づけている(労働基準法)。ただし同条第2項により、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合は、この週1回の原則が適用されない。つまり休日の置き方によっては、連続勤務の日数がかなり長くなる余地が、制度上もともと存在する。

具体例を挙げよう。週休1日のシフトでも、ある週は週初に休み、翌週は週末に休みを置けば、その間は最大12日の連続勤務になる。月曜から金曜まで働き、2週続けて土曜にも入れば、それだけで12連勤だ。「今週の土曜だけ」「来週の土曜も」という繁忙期の依頼が、知らぬ間に長期連勤を生む。勤務日数を正確に把握していなければ、14日連続の一歩手前まで到達していることに気づけない。
報告書が示した「14日以上の連続勤務の禁止」という方向性
報告書では、長期の連続勤務が労働者の健康に与える影響を踏まえ、連続勤務に上限を設ける方向が検討されている(厚生労働省)。施行時期や詳細は確定していないが、方向性として「14日以上働かせない」という線が引かれようとしている、と理解しておくべきだろう。
そして注意したいのが、店長など管理監督者も無関係ではない点だ。長時間労働で管理職が健康を害せば、企業は労働契約法上の安全配慮義務を問われうる。「管理職だから規制の外」という発想こそ、本質を見誤る。連続勤務の問題は、人手不足の飲食店ほど氷山の一角だ。本当の問題は、その先にある慢性的な人員設計のひずみにある。
勤務間インターバル11時間が、深夜営業の飲食店に効く理由
勤務間インターバルとは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息を確保する仕組みである。報告書では、これを義務化し、原則11時間のインターバルを確保する案が示された(厚生労働省)。深夜まで営業する飲食店にとって、この11時間は想像以上に重い数字だ。

現状は努力義務、導入企業は5.7%にとどまる
勤務間インターバル制度は、2019年4月施行の改正労働時間等設定改善法により、すでに事業主の努力義務となっている(厚生労働省)。ただし「努力義務」のため罰則はなく、導入は進んでいない。令和6年就労条件総合調査によれば、制度を導入している企業は5.7%にとどまり、導入予定も検討もしていない企業が78.5%を占める(厚生労働省)。多くの飲食店にとって、勤務間インターバルはまだ「自社とは縁遠い制度」だろう。だが義務化されれば、この前提が一夜で変わる。
ラストオーダー後の片付けと翌朝の仕込みが「11時間」を削る
なぜ飲食店で11時間が効くのか。ラストオーダーから締め作業、レジ締め、清掃まで含めれば、終業は閉店時刻より大きく後ろにずれる。仮に深夜1時に実質的な業務が終わり、翌日の仕込みが午前10時に始まれば、休息はわずか9時間だ。これでは原則11時間を割り込む。

深夜営業と早い仕込みを同じスタッフが担う体制は、飲食業では珍しくない。肌感覚でご存じのことと思うが、この「閉めて開ける」シフトこそ、インターバル規制が直撃する典型例だ。一人のスタッフに閉店と開店を続けて任せていないか。そこが最初の確認ポイントになる。
論点 | 現行制度 | 改正で検討されている方向 |
|---|---|---|
連続勤務 | 週1回の休日が原則(4週4日の特例あり)。長期連勤の余地が残る | 14日以上の連続勤務を禁止する方向 |
勤務間インターバル | 努力義務(罰則なし)。導入は5.7% | 義務化し、原則11時間を確保する方向 |
つながらない権利 | 規定なし | 勤務時間外の連絡対応についてガイドライン策定を検討 |
(出典:厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」、令和6年就労条件総合調査)
場当たり的なシフト調整では、問題の本質を見誤る
ここで多くの経営者が取りがちな対応が、「とりあえず人を増やす」「気合いで乗り切る」という発想だ。だが採用難の飲食業で、頭数を揃え続ける戦略は長続きしない。場当たり的なシフト調整は、繁忙期にまた同じ綻びを生む。問題は個々のシフトではなく、シフトを組む仕組みの側にあるからだ。
そこで提案したいのが、第三の道である。すなわち、勤怠データの可視化と労務DX、そして顧問社労士の活用を組み合わせ、規制が来る前に構造から整える道だ。
第三の道は「今のシフト表の可視化」から始まる
私が支援の現場で重視しているのは、「労務という横軸」と「業種・業界という縦軸」を掛け合わせた視点だ。労務リスクという横軸だけを見ても、飲食業特有の深夜営業や仕込みの実態という縦軸を踏まえなければ、有効な手は打てない。縦軸と横軸を掛け合わせたとき、初めて「どのシフトが危ないか」が立体的に見えてくる。
飲食業の連勤やインターバル不足は、特定の曜日・特定のポジションに偏って発生する。これは私がクライアントデータから導いている、仮説と検証に基づいた実感だ。だからこそ、勘ではなくデータで自店のシフトを棚卸しすることに意味がある。自社開発の労務管理クラウド「HybRid」も、こうした可視化を起点に設計している。

手続きの電子化は、もはや当たり前だ。その先で「先生と顧問契約をしていて良かった」と言われる価値は、規制の変化を先読みし、明快な助言として届けられるかにかかっている。具体的な進め方は労務相談(社会保険労務士法人CSS)で個別に整理できる。
いま確認すべきチェックリスト(お得な情報)
施行を待たずに、今日から着手できる確認事項を整理した。これはコストをかけずに始められる、お得な情報だ。まずは直近1〜2か月のシフト実績を、次の視点で点検してほしい。
14日以上の連続勤務になっているスタッフはいないか
2週連続で土日とも出勤しているシフトが組まれていないか
4週4日の変形休日制を採っている場合、休日の置き方で長期連勤が発生していないか
閉店作業と翌朝の仕込みを、同一スタッフに連続で割り当てていないか
終業から翌始業までの休息が11時間を割っている日が、月に何件あるか
店長など管理監督者の連続勤務・休息時間を、一般スタッフと同じ精度で把握できているか
上記を「感覚」ではなく「データ」で即座に集計できる勤怠の仕組みがあるか
一つでも「把握できていない」が残るなら、そこが備えの出発点になる。可視化さえできれば、打ち手の優先順位は自ずと明快になる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 法案提出が見送られたなら、飲食店は当面何もしなくてよいのか。
何もしないのは得策ではない。見送られたのは提出時期であり、連続勤務の上限や勤務間インターバル義務化の議論は継続している。施行が決まってから就業規則やシフト体制を見直すと、短期間での対応を迫られる。今のうちにシフトを可視化しておくことが、最も低コストな備えだ。
Q2. 飲食店の連続勤務は、現行法では何日まで認められているのか。
現行の労働基準法は週1回の休日を原則とするが、4週4日の特例があるため、休日の置き方次第で連続勤務は長くなりうる。週休1日でも最大12日連続は起こりうる。改正では14日以上を禁じる方向が議論されており、現状でも長期連勤の管理は必要だ。
Q3. 勤務間インターバル11時間は、深夜営業の店でも守れるのか。
工夫すれば対応の余地はある。閉店作業と翌朝の仕込みを別のスタッフに分ける、開店時刻を調整する、シフトパターンを再設計する、といった手段がある。まずは11時間を割っている日を特定し、どのポジションで発生しているかをデータで把握することが先決だ。
Q4. うちは小規模な飲食店だが、勤怠管理のDXは大げさではないか。
小規模だからこそ効果が出やすい。スタッフ数が少ない店ほど、一人の連勤や休息不足が経営に直結する。高度なシステムでなくても、連続勤務日数とインターバル時間を自動で集計できる仕組みがあれば十分だ。可視化の費用対効果は、規模が小さいほど高い。
参考にした情報源
本記事の作成にあたり、以下の一次情報源を参照した。最新の情報は各リンク先で確認されたい。
労働基準関係法制研究会報告書(厚生労働省、最終確認日:2026年6月20日)
令和6年就労条件総合調査 結果の概況(厚生労働省、最終確認日:2026年6月20日)
勤務間インターバル制度について(働き方・休み方改善ポータルサイト)(厚生労働省、最終確認日:2026年6月20日)
労働基準法(e-Gov法令検索、最終確認日:2026年6月20日)
なお、2026年通常国会への労働基準法改正案の提出が見送られた件は、2025年12月の厚生労働大臣の記者会見を機に複数の報道機関が報じたものであり、本記事ではその内容を前提に解説している。施行時期は本記事執筆時点で確定していない。
まとめ──縦軸と横軸を掛け合わせた備えが、選ばれる店をつくる
法案は見送られた。だが連続勤務14日禁止と勤務間インターバル11時間の議論は、飲食店のシフト運用に静かに迫っている。慌てて人を増やす必要も、施行を待つ必要もない。今のシフト表を可視化し、危険な連勤と休息不足を構造から潰すことが、最も現実的で実りある一手だ。
労務という横軸と、飲食業という縦軸を掛け合わせて初めて、自店に効く備えが見えてくる。規制の先読みと明快な助言を、顧問という形で受け取れるかどうか。それが、これからの飲食店経営の差になっていくのではないだろうか。自店のシフトを一度きちんと棚卸ししたい経営者は、当法人の強みをご覧いただいたうえで、お問い合わせから相談されたい。
社会保険労務士法人CSS 代表 内藤秀和


