ホーム

> 

連載コラム


飲食店の労働条件通知書は同意書ではない|2026年10月のパート・有期改正

飲食店の労働条件通知書は同意書ではない|2026年10月のパート・有期改正

2026.09.02

飲食店では、労働条件通知書を渡した時点で手続きが完了したと考えられがちです。しかし通知書は、会社が労働条件を知らせるための書面であり、従業員が内容に同意したことを示す書面ではありません。この違いは、2026年10月1日の改正でより明確になります。パートタイム・有期雇用労働者への明示事項に「説明を求めることができる旨」が加わり、通知書が説明の出発点として位置づけられるためです。この記事では、通知書と雇用契約書の違いを整理したうえで、施行日までに何を見直せばよいかを説明します。

この記事の要点

  • 労働条件通知書は、会社が労働条件を一方的に「知らせる」書面です。署名があっても、それだけで内容への同意を証明するものではありません

  • 2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者への明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」が追加されます(厚生労働省)

  • 明示義務が生じる「雇い入れたとき」には、有期労働契約の更新時も含まれます

  • 同一労働同一賃金ガイドラインも改正され、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇の考え方が明確になります

  • 待遇差を説明する方法についても、2つの方法のうちいずれかによることが定められます

労働条件通知書と雇用契約書は別の書面です

労働条件通知書とは、会社が従業員に労働条件を知らせるために交付する書面です。一方、雇用契約書とは、会社と従業員が労働条件について合意したことを示す書面です。作成義務の有無も、署名の意味も異なります。

労働基準法第15条は、労働契約の締結に際して、賃金・労働時間その他の労働条件を明示することを会社に義務づけています。明示の方法として、一定の事項については書面の交付が必要です。これが労働条件通知書です。

雇用契約書には、法律上の作成義務がありません。ただし、双方が署名または記名押印することで、合意した内容の記録になります。実務では、両方の性質を持たせた「労働条件通知書兼雇用契約書」を用いることもあります。

2つの書面の違いを整理します。

項目

労働条件通知書

雇用契約書

性質

会社が労働条件を知らせる書面

会社と従業員が労働条件に合意した書面

作成義務

労働基準法第15条により明示が義務づけられている

法律上の作成義務はない

署名の意味

受領を示すにとどまる場合がある

記載内容に合意したことを示す

主な使い方

採用時や有期契約の更新時に交付する

労働条件を個別に取り決める場合に用いる

飲食店で問題になりやすいのは、通知書を渡すだけで、内容の説明をしていないケースです。書面は交付されているため、労働基準法第15条の義務そのものは果たしています。しかし、後から労働条件をめぐって認識の違いが生じたとき、説明した記録が残っていません。

通知書への署名は「同意」を証明するものではありません

労働条件通知書に署名をもらっても、それだけで従業員が内容に同意したことにはなりません。通知書は会社からの一方的な通知であり、署名は「受け取った」ことを示すにとどまる場合があるためです。

たとえば、通知書に「受領しました」とだけ書かれた署名欄がある場合、それは受領の証明にすぎません。労働条件そのものへの同意とは区別されます。

採用時に交付した通知書が、そのままファイルに綴じられているだけという飲食店は少なくありません。書面が残っていることと、内容を説明して納得を得たことは、別の話です。

労働条件の変更には、原則として合意が必要です

就業開始後に労働条件を不利益に変更する場面では、通知書を差し替えるだけでは足りません。労働契約法が、変更の手続きについて明確な枠組みを置いているためです。

労働契約法第8条は、労働契約の内容である労働条件は、会社と従業員の合意により変更できると定めています。同法第9条は、会社が従業員と合意することなく、就業規則を変更することによって従業員に不利益に労働条件を変更することはできない、と定めています。

ただし、第9条にはただし書きがあり、「次条の場合は、この限りでない」とされています。その第10条は、変更後の就業規則を従業員に周知させ、かつ変更が合理的なものであるときは、労働条件は変更後の就業規則によるものとする、という規定です。合理性は、従業員が受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして判断されます(e-Gov法令検索)。

つまり、労働条件の変更には原則として合意が必要です。就業規則の合理的な変更による例外はありますが、合理性が認められるかどうかの判断は容易ではありません。いずれにしても、新しい通知書を渡しただけで変更が成立したとは言えません。変更内容を説明し、従業員が理解したうえで合意した記録を残すことが、もっとも確実な進め方です。

この点は、会社にとっても従業員にとっても同じ意味を持ちます。合意の記録がなければ、双方が「聞いていない」「説明した」と主張し合う状況になります。記録は、どちらか一方を守るためのものではありません。

2026年10月1日、パート・有期の明示事項が1つ増えます

2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際の明示事項に、新たに1項目が追加されます。「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨です。

パートタイム・有期雇用労働法により、パートタイム労働者と有期雇用労働者を雇い入れたときは、労働基準法に基づく明示事項に加えて、次の4つを書面の交付等により明示することが義務づけられています。

  • 昇給の有無

  • 退職手当の有無

  • 賞与の有無

  • 相談窓口

2026年10月1日以降は、これらに加えて「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。

厚生労働省は、この改正の目的を、正社員との待遇の違いについて会社に説明を求めることができる旨をパートタイム・有期雇用労働者に明示し、疑問が生じた際の相談を促すことにあると説明しています。

改正前後を比較すると、次のとおりです。

明示事項

2026年9月30日まで

2026年10月1日から

昇給の有無

必要

必要

退職手当の有無

必要

必要

賞与の有無

必要

必要

相談窓口

必要

必要

待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨

不要

必要

「雇い入れたとき」には契約の更新時も含まれます

明示義務が生じる「雇い入れたとき」には、有期労働契約の更新時も含まれます。初めて採用したときだけの話ではありません。

この点は、飲食店の実務に直接影響します。アルバイトやパートタイマーと有期契約を結び、半年または1年ごとに更新している場合、更新のたびに明示義務が生じるためです。

2026年10月1日以降に契約を更新する有期雇用労働者については、新しい明示事項を記載した書面を使う必要があります。施行日をまたいで更新が発生する契約がどれだけあるか、事前に洗い出しておく必要があります。

無期雇用の短時間労働者については、施行日前から雇用している場合、この改正だけを理由に通知書を一律に再交付する義務はありません。ただし、説明を求めることができる旨を伝えておくことは、望ましい対応とされています。

同一労働同一賃金ガイドラインも改正されます

2026年10月1日には、同一労働同一賃金ガイドラインも改正されます。裁判例などを踏まえ、賞与・退職手当・各種手当・福利厚生についての考え方が、これまでより明確に示されます。

厚生労働省が示した具体例のうち、飲食店に関係しやすいものを挙げます。

  • 家族手当について、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者に対しては、正社員と同一の手当を支給しなければならないとされました

  • 住宅手当について、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパートタイム・有期雇用労働者に対しては、正社員と同一の手当を支給しなければならないとされました

  • 夏季冬季休暇について、パートタイム・有期雇用労働者に対しては、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならないとされました

複数店舗を運営し、社員に転居を伴う異動がある飲食企業では、住宅手当の扱いを確認しておく必要があります。また、契約更新を繰り返しているパートタイマーがいる場合は、家族手当の支給基準が論点になります。

これらは、通知書の文言だけの問題ではありません。手当の支給基準そのものを見直す作業になります。

待遇差を説明する方法も定められます

待遇の相違等を説明する際の方法についても、2026年10月1日から見直されます。次の2つの方法のうち、いずれかによることが必要になります(厚生労働省)。

  • 資料を活用し、口頭により説明する方法

  • 説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい内容の資料を交付する等の方法

口頭だけで済ませることも、資料を渡すだけで説明を省くこともできない、という整理です。

あわせて、賃金を決定する際には、職務の内容や成果、意欲、能力、経験をはじめとする要素を勘案し、公正な評価に基づいて決定することが求められます。評価の結果を昇給に反映することも、その一環です。

さらに、正社員等への転換制度の内容や転換実績などをパートタイム・有期雇用労働者に明示するよう努めることが求められます。それらをウェブサイトで定期的に公表することも、望ましい対応とされています。

施行日までに整えておくこと

2026年10月1日までに準備できることは、大きく3つです。書面の様式、支給基準、説明の体制です。

1. 労働条件通知書の様式を見直す

パートタイム・有期雇用労働者向けの様式に、「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる」旨の記載を追加します。厚生労働省がモデル様式を公表しているため、それに合わせるのが確実です。

2. 施行日以降に更新が発生する契約を洗い出す

有期契約の更新日を一覧にし、2026年10月1日以降に更新が来る契約を特定します。更新時から新しい様式を使うためです。飲食店では契約書の管理が店舗ごと・個人ごとに分散しやすいため、この作業には時間がかかります。

3. 待遇差の内容と理由を説明できる状態にする

家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇について、正社員とパートタイム・有期雇用労働者で扱いが分かれている場合は、その理由を整理します。説明を求められてから理由を考えると、後付けの説明に見えてしまいます。

施行日まで、残り1か月を切りました。いずれの準備も、施行日の直前に始めては間に合いません。まずは更新日の洗い出しから、今週中に着手されることをおすすめします。

施行日までに確認したい5つのチェック項目

施行日までに自店で確認できることを、チェックリストにまとめます。上から順に確認してください。

#

確認すること

期限の目安

1

パート・有期用の労働条件通知書に、説明を求めることができる旨の記載があるか

9月中

2

2026年10月1日以降に更新日が来る有期契約を一覧にしたか

9月中

3

家族手当・住宅手当の支給基準が、雇用形態で分かれていないか

9月中

4

夏季冬季休暇の付与条件を、正社員とパート・有期で比較したか

10月上旬

5

待遇差を説明する担当者と、説明に使う資料を決めたか

10月上旬

まとめ:通知書は「説明の入口」になります

労働条件通知書は、会社が一方的に渡して終わる書類ではなくなります。従業員が疑問を持ったときに、説明を求める入口として機能する書面になります。この位置づけの変化を前提に様式と体制を整えておくことで、労使双方が余計な負担を負わずに済みます。

様式の追記だけであれば、大きな手間はかかりません。時間がかかるのは、有期契約の更新日の洗い出しと、手当の支給基準の整理です。この2つから着手されることをおすすめします。

よくある質問

労働条件通知書と雇用契約書は、どちらを作ればよいですか?

労働条件通知書は、労働基準法第15条により交付が義務づけられています。雇用契約書に法律上の作成義務はありません。実務では、両方の性質を持たせた「労働条件通知書兼雇用契約書」を用いることもあります。義務を満たすうえでは、通知書の交付が必須です。

労働条件通知書に署名をもらえば、内容に同意したことになりますか?

署名は、受領を示すにとどまる場合があります。労働条件の変更には、労働契約法第8条により、原則として会社と従業員の合意が必要です。就業規則の合理的な変更による例外(同法第10条)はありますが、合理性の判断は容易ではありません。新しい通知書を渡しただけでは変更が成立したとは言えず、説明と合意の記録を残すことが求められます。

2026年10月1日から追加される明示事項は何ですか?

「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨です。従来の4事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口)に加えて明示します。対象は、パートタイム労働者と有期雇用労働者です。

契約を更新するときにも、新しい様式を使う必要がありますか?

必要です。明示義務が生じる「雇い入れたとき」には、有期労働契約の更新時も含まれます。2026年10月1日以降に更新する有期雇用労働者については、新しい明示事項を記載した書面を使う必要があります。施行日をまたぐ契約を事前に洗い出しておくことをおすすめします。

正社員にも今回の明示義務は適用されますか?

今回追加される明示義務の対象は、パートタイム労働者と有期雇用労働者です。無期雇用のフルタイム労働者は、パートタイム・有期雇用労働法の適用対象ではありません。ただし、待遇差の説明義務そのものは、従来から定められています。

家族手当は、パートタイマーにも支給しなければならないのですか?

改正後の同一労働同一賃金ガイドラインでは、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者に対しては、正社員と同一の家族手当を支給しなければならないとされました。契約更新を繰り返している場合は、支給基準の確認が必要です。

参考・出典

本記事の作成にあたり、以下の一次情報源を参照しました。最新の情報は、各リンク先でご確認ください。

ご相談について

社会保険労務士法人CSSは、飲食業・サービス業の労務管理を専門としています。労働条件通知書の様式見直しや有期契約の更新管理についてのご相談をお受けしています。2026年10月1日の施行に向けて準備を始める段階で、お問い合わせよりお気軽にお声がけください。