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連載コラム


飲食店の給与計算と2026年協会けんぽ料率改定・子育て支援金

飲食店の給与計算と2026年協会けんぽ料率改定・子育て支援金

2026.08.19

「先月より手取りが減っているのですが」。4月や5月、アルバイトからこう尋ねられた経験はないだろうか。飲食店の給与計算は、2026年に二つの変更を受けている。協会けんぽの料率改定と、子ども・子育て支援金の徴収開始だ。

本記事の結論:飲食店の給与計算は「金額」より「説明」で時間を奪われる

結論から述べる。2026年の料率改定と支援金が手取りに与える影響は、1人あたり月数十円から数百円にとどまる。だが本当の負担は金額ではない。給与明細の変化を従業員に説明する時間が、店長や経営者の現場マネジメントを圧迫する点にある。これは氷山の一角だ。本当の問題は、その先にある。

2026年に飲食店の給与計算へ効いてくる3つの変更点

まず変更点を押さえたい。2026年度(令和8年度)に給与計算へ影響するのは、健康保険料率の引き下げ、介護保険料率の引き上げ、そして子ども・子育て支援金の新設だ。いずれも協会けんぽに加入する飲食店が対象となる。

項目

令和7年度

令和8年度

控除への反映(翌月控除の場合)

健康保険料率(全国平均)

10.0%

9.90%

2026年4月支給給与

健康保険料率(大阪府)

10.24%

10.13%

2026年4月支給給与

介護保険料率(全国一律・40〜64歳)

1.59%

1.62%

2026年4月支給給与

子ども・子育て支援金率

制度なし

0.23%(新設)

2026年5月支給給与

健康保険料率の全国平均は10.0%から9.90%へ、0.1%引き下げられた(全国健康保険協会)。34年ぶりの引き下げである。大阪府も10.24%から10.13%へ下がった(全国健康保険協会)。一方、介護保険料率は1.59%から1.62%へ上がっている(全国健康保険協会)。

手取りが変わる要因が、複数同時に動く。だからこそ、現場での説明が複雑になる。

子ども・子育て支援金とは:定義と本人負担額の目安

子ども・子育て支援金は、2026年4月から始まった新しい制度だ。社会全体で子育てを支えるため、医療保険料に上乗せして徴収される(こども家庭庁)。会社員も自営業者も、公的医療保険の加入者が広く対象となる。

支援金額は「標準報酬月額×支援金率」で決まる。令和8年度の支援金率は、全国一律で0.23%だ(こども家庭庁)。このうち半分は会社が負担するため、本人負担は標準報酬月額の0.115%にあたる。

標準報酬月額

本人負担額(月額・概算)

8.8万円

約101円

9.8万円

約113円

15万円

約173円

20万円

約230円

30万円

約345円

※標準報酬月額に0.0023を乗じ、その半分とした概算だ。端数処理により、実際の控除額は異なる場合がある(こども家庭庁・全国健康保険協会)。

数字を見れば、月数百円という水準がわかる。アルバイトが「手取りが減った」と感じる金額は、この程度だ。肌感覚でご存じのことと思う。

なぜ「説明コスト」が飲食店経営の本質に効くのか

影響額が小さいなら問題はない、と考えるのは本質を見誤る。飲食店にとって本当のコストは、現場マネジメントの時間だからだ。

支援金の徴収は4月分から、つまり翌月控除の事業所では5月支給給与から始まる(こども家庭庁)。健康保険料率の改定は3月分から、翌月控除なら4月支給給与に反映される。両者は1か月ずれる。

このズレが現場に効いてくる。4月は料率改定で手取りが動き、5月は支援金でまた動く。2か月連続で給与明細が変わるため、従業員からの問い合わせも2回に分かれる。

これは、私がクライアントデータから導いている、仮説と検証に基づいた実感だ。料率改定の時期、店長の時間は明細説明と再計算の確認に割かれていく。その時間は、本来シフト調整や教育に充てられたはずのものではないだろうか。

場当たり対応ではなく「第三の道」を選ぶ

ここで取るべきは、明細を1件ずつ口頭で説明する対応ではない。仕組みで処理する「第三の道」だ。

第一に、給与計算ソフトのマスター設定を正確に更新する。健康保険料率、介護保険料率、支援金率の3点を、控除方式に合った適用月で反映させる。設定漏れは、過不足の修正という後工程を生む。

第二に、従業員向けの説明資料を1枚用意し、全員に同じ内容を配る。個別対応を「お得な情報」の一斉配布へ置き換える発想だ。標準報酬月額別の負担額を示しておけば、問い合わせの多くは事前に解消できる。

第三に、給与計算そのものを外部の専門家へ委ねる選択肢もある。料率改定のたびに設定を確認する負担から、経営者は解放される。社会保険労務士法人CSSの給与計算代行は、その受け皿となる。

給与計算前に確認したいチェックリスト

給与計算を走らせる前に、設定の抜けを潰しておきたい。以下を確認することで、後の修正対応を防げる。

  • 給与計算ソフトの健康保険料率を令和8年度(大阪府は10.13%)へ更新したか

  • 介護保険料率を1.62%へ更新したか(40〜64歳の対象者のみ)

  • 子ども・子育て支援金率0.23%を、適用月から有効にしたか

  • 控除方式(当月控除か翌月控除か)に応じた反映月を確認したか

  • 標準報酬月額別の負担額を示した従業員向け資料を準備したか

  • 算定基礎届による定時決定との整合を確認したか

よくある質問(FAQ)

Q1. 2026年に飲食店の給与計算で従業員の手取りはどう変わるのか?

A. 4月支給給与で健康保険料率の改定が反映され、5月支給給与から子ども・子育て支援金が加わる(翌月控除の場合)。大阪府の健康保険料率は引き下げ、支援金は新たな負担となるため、手取りは月数十円から数百円の範囲で動く。

Q2. 子ども・子育て支援金はアルバイトも負担するのか?

A. 協会けんぽなど公的医療保険に加入している従業員は、雇用形態を問わず対象となる(こども家庭庁)。社会保険に加入しているアルバイトであれば、標準報酬月額に応じた本人負担が生じる。なお被扶養者は被保険者の保険料に含まれるため、別途の負担はない。

Q3. 健康保険料率の改定と支援金の開始は、なぜ時期がずれるのか?

A. 健康保険料率の改定は3月分から、子ども・子育て支援金の徴収は4月分から始まるためだ(全国健康保険協会・こども家庭庁)。翌月控除の事業所では、前者が4月支給給与、後者が5月支給給与に反映され、1か月ずれる。給与計算の設定で混同しないよう注意したい。

Q4. 育児休業中の従業員も子ども・子育て支援金を負担するのか?

A. 育児休業中は支援金が免除される(こども家庭庁)。健康保険料や厚生年金保険料と同様に、育休中の保険料免除の枠組みの中で扱われる。対象者がいる場合は、免除手続きの状況を給与計算前に確認しておきたい。

Q5. 賞与(ボーナス)からも子ども・子育て支援金は引かれるのか?

A. 賞与からも徴収される(こども家庭庁)。月々の給与は標準報酬月額を、賞与は標準賞与額を基礎として、それぞれ支援金率を乗じる。賞与支給のある飲食店は、賞与計算時の設定にも反映が必要となる。

参考にした情報源

本記事の作成にあたり、以下の一次情報源を参照した。最新の情報は各リンク先で確認されたい。

まとめ:料率改定を「説明の仕組み化」へ変える

2026年の協会けんぽ料率改定と子ども・子育て支援金は、飲食店の給与計算に小さく、しかし確実に効いてくる。影響額は小さいという直感は、正しいと思う。だが現場で奪われるのは、店長の時間という見えにくいコストだ。

労務という横軸と、飲食業という縦軸を掛け合わせたとき、経営者に必要なのは制度解説そのものではない。「いつ・誰に・何を説明するか」という明快な助言だ。料率改定を、明細説明の仕組み化へと変える視点を持ちたい。

給与計算や従業員への説明対応に不安があれば、社会保険労務士法人CSSの労務相談から相談されたい。手続きの電子化は、もはや前提だ。その先で「顧問契約をしていて良かった」と感じていただける支援を重視している。

社会保険労務士法人CSS 代表 内藤秀和