育成就労制度で飲食店はどう変わるか──技能実習の終焉と、今からやるべき準備
2026.07.22

外国人スタッフなしには現場が回らない。多くの飲食店オーナーが、そう肌感覚でご存じのことと思う。その外国人材の受入れ制度が、2027年に根本から組み替わる。技能実習制度が廃止され、新たに「育成就労制度」が始まるのだ。
「制度の名前が変わるだけだろう」。そう受け止めているなら、本質を見誤る。これは飲食店の人材戦略そのものを揺るがす変化だ。本記事では、社労士の見直しを検討しているオーナーに向けて、何が変わり、今から何をすべきかを明快に整理する。
本記事の結論──育成就労時代は「囲い込み」では人材を保てない
結論から述べる。育成就労制度では、技能実習で原則禁止だった「転籍(転職)」が、一定要件のもとで解禁される(出入国在留管理庁)。外食業の場合、就労開始から2年が経過し、技能と日本語の要件を満たせば、本人の意向で別の飲食店へ移れるようになる。

つまり、低い待遇のまま人材を「囲い込む」やり方は、もう通用しない。育成就労時代に選ばれ続けるのは、日本語教育に投資し、キャリアパスを可視化できる店舗だ。これは私がクライアントデータから導いている、仮説と検証に基づいた実感だ。
育成就労制度とは何か──2027年に技能実習は廃止される
育成就労制度は、外国人材を原則3年間就労させ、「特定技能1号」の水準まで育てる仕組みである(出入国在留管理庁)。根拠は令和6年法律第60号(改正入管法・技能実習法)だ。施行日は2027年(令和9年)4月1日。2025年9月26日の閣議で正式に決まった(出入国在留管理庁)。
技能実習が「国際貢献のための人材育成」を建前としていたのに対し、育成就労は「国内の人材確保」を正面から目的に掲げる。建前と実態のねじれが、ようやく制度として整理されたと言ってよい。
外食業は対象17分野の一つ
受入れ対象は、特定技能の「特定産業分野」と原則そろえられる。令和8年1月23日に閣議決定された分野別運用方針では、特定産業分野が19分野、そのうち育成就労産業分野は17分野とされた(出入国在留管理庁)。航空と自動車運送業の2分野が除かれた形だ。

外食業は、この17分野に明確に含まれている(出入国在留管理庁)。飲食店にとって、育成就労は「対岸の制度」ではない。自店の採用に直結する、目の前の論点なのだ。
技能実習と育成就労の主な違いを整理しておく。
比較項目 | 技能実習(現行) | 育成就労(2027年4月〜) |
|---|---|---|
主目的 | 国際貢献・人材育成 | 国内の人材確保・育成 |
在留期間 | 最長5年 | 原則3年(不合格等で最長1年延長) |
転籍(転職) | 原則不可 | 一定要件で本人意向の転籍を解禁 |
日本語要件 | 制度上の必須水準なし(介護除く) | 就労開始時N5相当、移行時A2相当以上 |
出口 | 帰国が原則 | 特定技能1号への移行を想定 |
(出入国在留管理庁・厚生労働省の公表資料をもとに作成)
単なる制度変更ではない──育成就労「転籍解禁」のインパクト
ここからが本質だ。最大の地殻変動は「転籍の解禁」にある。これは氷山の一角だ。本当の問題は、その先にある。
技能実習では、実習生は原則として受入れ機関を変えられなかった。だからこそ、待遇が他店より見劣りしても、人材は現場にとどまった。この「動けない」前提が、外食業の人材コストを内側から支えていた側面は否めない。
育成就労では、その前提が崩れる。転籍制限期間を超えれば、より良い条件の店へ移ることが、本人の権利として認められる(出入国在留管理庁)。
外食業の転籍制限期間は「2年」
転籍制限期間は分野ごとに1年〜2年の範囲で設定される。人材育成の観点から1年を基本としつつ、業務の性質に応じて延長される枠組みだ(出入国在留管理庁)。
外食業は、このうち「2年」とされている分野に位置づけられた(出入国在留管理庁)。調理・接客・店舗管理が一連の業務であり、接客は日本語や日本の慣習に習熟した2年目以降に本格的に育てる必要がある、というのがその理由である。

ただし、本人意向の転籍が認められるには、期間以外にも要件がある。主なものを挙げる。
同一機関での就労が、転籍制限期間(外食業は2年)を超えていること
技能検定基礎級等、または育成就労評価試験に合格していること
日本語能力試験で、A1相当(N5)より上位の水準に合格していること
転籍先が「優良な実施者」として認定され、受入れ上限の枠内であること
1年経過後の「昇給」という見落とし
もう一つ、賃金規程に直結する論点がある。外食業のように1年を超える転籍制限期間を設ける分野では、就労開始から1年が経過した後、転籍を制限する代わりに、昇給など待遇向上の仕組みを講じることが求められる(出入国在留管理庁)。
「2年は動けない」という制約と引き換えに、店舗側は1年目から2年目への昇給を設計しなければならない。これは就業規則や賃金規程の見直しを伴う実務だ。給与計算の運用にも影響する。施行直前に慌てて整えるたぐいの話ではない。
場当たり対応では本質を見誤る──育成就労時代の第三の道
では、どう備えるか。先に、避けるべき対応を二つ挙げる。
一つは、転籍を恐れて「賃金だけで縛ろう」とすることだ。条件競争に持ち込めば、体力のある大手チェーンに勝てない。もう一つは、「まだ2027年の話だ」と先送りすることだ。日本語教育も、賃金規程の整備も、一朝一夕には仕上がらない。
私が提案したいのは、第三の道だ。それは「日本語教育への投資」と「キャリアパスの可視化」を掛け合わせる戦略である。
外食業の転籍要件には、日本語能力の合格が組み込まれている。裏を返せば、店舗が日本語学習を支援することは、人材の特定技能移行を後押しし、結果として定着につながる。さらに育成就労(3年)から特定技能1号(最長5年)、そして特定技能2号へと続く道筋を本人に示せる店舗は、「ここで働き続ければ未来がある」という直感を相手に与えられる。その直感は、正しいと思う。

なお、外食業の特定技能1号は、現行の受入れ上限(5万人)に達する見込みとなり、農林水産省は2026年4月13日以降、在留資格認定証明書の新規交付を一次的に停止する方針を示した(農林水産省)。それほどまでに、外食の外国人材ニーズは逼迫している。受け皿を制度的に整えた店舗が有利になる構図は、いっそう鮮明になっていくのではないだろうか。
縦軸×横軸で備える、育成就労時代の実務チェックリスト
ここで「お得な情報」を一つ。育成就労への備えは、特別な新規投資というより、既存の労務管理の延長線上で着手できる部分が多い。「業種・業界という縦軸」(飲食業の人材実態)に、「労務という横軸」(就業規則・賃金・在留資格)を掛け合わせる。縦軸と横軸を掛け合わせた視点こそが、明快な助言の土台になる。
施行までに、最低限おさえておきたい確認事項を挙げる。
自店の外国人スタッフの在留資格と、技能実習からの移行スケジュールを把握しているか
就業規則・賃金規程に、1年経過後の昇給の仕組みを織り込めているか
日本語学習を支援する制度(時間・費用の補助など)を用意できているか
育成就労から特定技能への移行ルートを、本人に説明できる形に整理しているか
監理支援機関や顧問社労士と、施行に向けた情報連携ができているか
これらは、仮説と検証を重ねながら、自店の実情に合わせて詰めていく性質のものだ。一律の正解はない。だからこそ、飲食業の現場を理解した専門家との対話が効いてくる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 育成就労制度はいつから始まるのか?
2027年(令和9年)4月1日に施行される(出入国在留管理庁)。2025年9月26日の閣議で決定済みだ。ただし施行前に技能実習計画の認定を受けている場合などは、経過措置により技能実習を継続できる。
Q2. 飲食店(外食業)も育成就労の対象なのか?
対象だ。令和8年1月23日に閣議決定された分野別運用方針で、外食業は育成就労産業分野(17分野)の一つに位置づけられている(出入国在留管理庁)。自店の採用に直接関わる制度と捉えてほしい。
Q3. 外国人スタッフは、いつから別の店へ転籍できるのか?
外食業では、就労開始から2年が経過し、技能・日本語の要件などを満たした場合に、本人意向による転籍が認められる(出入国在留管理庁)。転籍制限期間は分野ごとに1〜2年で設定され、外食業は2年とされている。
Q4. 何から準備すればよいのか?
就業規則・賃金規程の見直しと、日本語学習支援の体制づくりが起点になる。とくに外食業は、1年経過後の昇給の仕組みを整える必要がある(出入国在留管理庁)。施行直前ではなく、今から段階的に着手するのが現実的だ。

参考にした情報源
本記事の作成にあたり、以下の一次情報源を参照した。最新の情報は各リンク先で確認されたい。
育成就労制度の概要(出入国在留管理庁、最終確認日:2026年6月20日)
育成就労制度Q&A(出入国在留管理庁、最終確認日:2026年6月20日)
「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針について」を閣議決定しました(出入国在留管理庁、最終確認日:2026年6月20日)
育成就労制度における本人意向による転籍の制限(案)について(出入国在留管理庁、最終確認日:2026年6月20日)
特定技能制度及び育成就労制度に係る日本語試験の作成のためのガイドライン(出入国在留管理庁・厚生労働省、最終確認日:2026年6月20日)
外食業分野における外国人材の受入れについて(農林水産省、最終確認日:2026年6月20日)
まとめ──育成就労時代に「選ばれる店」へ
要点を改めて整理する。2027年4月、技能実習は廃止され、育成就労制度が始まる。外食業も対象17分野の一つだ(出入国在留管理庁)。最大の変化は転籍の解禁であり、外食業では2年経過後に人材が動けるようになる。
問われているのは、人材を縛る力ではなく、選ばれる力だ。日本語教育への投資とキャリアパスの可視化──この二つを掛け合わせられる店舗が、育成就労時代の勝者になる。これは仮説と検証を重ねたうえでの、私なりの明快な助言である。
就業規則や賃金規程の見直しは、施行を待たずに動き出せる。自店の備えに不安があるなら、飲食業の実務に通じた専門家に相談してほしい。当法人では、飲食店の労務に特化した労務相談や、昇給設計を反映した給与計算代行を通じて、制度移行の実務を支えている。当法人の考え方や体制は、社会保険労務士法人CSSの強みにまとめている。
電子化された手続きは、もはや当たり前だ。その先で「先生と顧問契約をしていて良かった」と言っていただける価値を、これからも届けていきたい。
社会保険労務士法人CSS 代表 内藤秀和


