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連載コラム


解雇の金銭解決とは|2026年再始動と飲食店の実務

解雇の金銭解決とは|2026年再始動と飲食店の実務

2026.09.09

「解雇の金銭解決」という言葉を目にして、解雇がお金で自由にできるようになるのか、と受け取った方もいるかもしれません。結論から書くと、現時点で決まっているのは、厚生労働省が2026年に検討会を新設するという方針だけです。制度の中身も、法制化の時期も決まっていません。この記事では、2015年から続く議論の経緯を整理したうえで、2022年の報告書で何が検討されたのか、そして飲食店の実務にどう関わるのかを説明します。

この記事の要点

  • 2025年11月18日の労働政策審議会労働条件分科会で、厚生労働省は2026年に有識者による検討会を設置する方針を示しました(厚生労働省)

  • 現時点で決まっているのは検討会を設置することだけです。制度の内容も、法制化の時期も決まっていません

  • 「解雇の金銭解決」とは、解雇が無効と判断された場合に、金銭の支払いによって労働契約を終了させる仕組みの検討を指します

  • 2022年4月の報告書は、あくまで「仮に制度を導入するとした場合」の法技術的な選択肢を示したものです

  • 労使の立場は分かれたままであり、飲食店の実務に今すぐの影響はありません

今、何が決まっていて、何が決まっていないのか

決まっているのは、検討会を設置することだけです。2025年11月18日に開かれた労働政策審議会の労働条件分科会で、厚生労働省は2026年に有識者による検討会を設置する方針を示しました(厚生労働省)。この日の分科会でも、労働者側委員からは導入に反対する意見が、使用者側委員からは検討を求める意見が示されています。

決まっていないことのほうが、はるかに多く残っています。

  • 制度を導入するかどうか

  • 導入する場合の金額の水準

  • 誰が申立てをできるのか

  • 法制化の時期

つまり現時点は、議論を再開するための入口に立った段階です。制度が固まったわけでも、施行日が決まったわけでもありません。

飲食店の経営者として押さえておくべきなのは、この「まだ何も決まっていない」という事実です。制度の中身が報じられる段階になってから確認しても、十分に間に合います。

「解雇の金銭解決」とは何か

解雇の金銭解決とは、解雇が無効と判断された場合に、金銭の支払いによって労働契約を終了させる仕組みのことです。厚生労働省の資料では「解雇無効時の金銭救済制度」と呼ばれています。

前提として、現在の法律では、解雇が無効と判断されると労働契約は続いていることになります。従業員は職場に戻る権利を持ちます。

しかし、実態は異なります。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2023年10月から11月にかけて実施した調査では、解雇等が無効と判断された労働者99人のうち、実際に職場へ復職した人は37.4%にとどまり、復職しなかった人は54.5%にのぼりました(残る8.1%は不明)。裁判で解雇が無効と認められても、半数以上は職場に戻っていないことになります。

戻れない。あるいは、戻りたくない。この状態をどう扱うかが、議論の出発点になっています。

飲食店の現場に置き換えると、事情はわかりやすくなります。従業員が数名から数十名の店舗で、一度雇用をめぐって争った相手と、同じ厨房やホールで再び働くことは容易ではありません。従業員の側にとっても、会社の側にとっても、復帰が現実的な選択肢にならない場面があります。金銭解決の議論は、この現実をどう制度に反映するかという問題でもあります。

議論のなかで検討されてきたのが「労働契約解消金」という考え方です。これは、無効な解雇によって労働者が受ける不利益に対して、金銭の支払いを請求できる権利を設けるという発想です。

議論は2015年から続いています

この議論は、今回が初めてではありません。2015年から複数の検討会が設けられ、2022年に一度、報告書が取りまとめられています。

経緯を整理すると、次のとおりです。

時期

出来事

2015年10月

「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を設置

2017年5月

同検討会の報告書を取りまとめ(2017年5月29日)。金銭救済制度については意見がまとまらず、3つの考え方が賛否とともに並記された

2018年6月

「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を設置(有識者のみで構成)

2022年4月

同検討会の報告書を取りまとめ(2022年4月12日公表)

2022年〜2025年

労働政策審議会での議論が進まず、事実上の先送りとなる

2025年11月18日

労働政策審議会の労働条件分科会で、厚生労働省が2026年に検討会を設置する方針を示す

2017年5月の報告書では、解雇無効時の金銭救済制度について意見がまとまらず、3つの考え方が、それぞれへの賛成意見と反対意見とともに並記されました。

その後、2018年6月に有識者のみで構成する検討会が設けられ、2022年4月に報告書が取りまとめられています(厚生労働省)。

2022年の報告書以降、労働政策審議会での議論は進まず、事実上の先送りとなっていました。2026年の検討会新設は、およそ4年ぶりの再始動ということになります。

2022年の報告書で整理されたこと

2022年4月の報告書は、制度の導入を決めたものではありません。報告書自身が、仮に制度を導入するとした場合に法技術的に取り得る仕組みや検討の方向性等に係る選択肢等を示すものである、と位置づけを明記しています(厚生労働省)。

ここは誤解されやすい点です。報告書が出たことをもって、制度が決まったと受け取られることがあります。実際には、制度を作るとしたらどのような作り方が技術的に可能か、を整理した文書です。

申立ての主体についても、検討の状況は分かれています。

申立ての主体

内容

これまでの検討状況

労働者からの申立て

解雇が無効と判断された場合に、労働者が金銭の支払いを請求できる仕組み

検討の中心として、複数の枠組みが検討されてきた

使用者からの申立て

会社側が金銭を支払うことで労働契約を終了させる仕組み

現状では容易ではない課題があるとの指摘があり、今後の検討課題とされた

2017年までの検討会では、使用者からの申立てによる制度について、現状では容易ではない課題があるとの指摘があり、今後の検討課題であるとされました。そのうえで、労働者からの申立てを前提とした枠組みについて検討が行われています。

つまり、これまでの議論の中心は「労働者が金銭の支払いを請求できる仕組み」でした。「会社が金銭を支払えば解雇できる仕組み」ではありません。この点は、報道の見出しだけを読むと取り違えやすいところです。

労使の立場は分かれたままです

この制度をめぐる労使の立場は、現在も一致していません。議論が長期化している最大の理由が、この対立にあります。

労働者側からは、不当な解雇を金銭で正当化しかねないという懸念が示されています。日本労働組合総連合会は、2022年4月12日に発出した事務局長談話で、不当解雇を正当化しかねない制度は断じて認められない、との立場を示しています。

一方で、金銭による解決の選択肢を求める声もあります。裁判で解雇が無効と認められても職場に復帰できない状況があるなかで、労働者にとっての選択肢を増やすという観点です。

2026年の検討会では、無効な解雇によって労働者が受ける不利益と、金銭による解決のあり方について議論が行われる見通しです。解決金の額の水準を含めた制度設計が検討対象になるとされています。

この対立は、単なる立場の違いではありません。解雇が無効と判断されたにもかかわらず職場に戻れない従業員をどう救済するか、という同じ課題に対して、金銭による解決が救済になるのか、それとも解雇を追認することになるのか、という評価が分かれているためです。だからこそ、2015年から10年以上にわたって結論が出ていません。

なお、本記事は、いずれかの立場の是非を論じるものではありません。制度の議論が今どの段階にあるかを整理することを目的としています。

飲食店の実務に、今すぐの影響はありません

2026年9月の時点で、飲食店が対応すべき制度変更はありません。検討会が設置される段階であり、法律も省令も変わっていないためです。

現在の解雇のルールは、これまでと変わりません。労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になります。労働基準法第20条により、解雇には30日前の予告または解雇予告手当が必要です(e-Gov法令検索)。

仮に将来、金銭解決の制度が導入されたとしても、それは「解雇が無効と判断された後」の話です。解雇そのものが認められやすくなる制度ではありません。

したがって、今取るべき対応は、制度の行方を待つことではありません。解雇に至る前の段階で、手続を整えておくことです。

議論の行方にかかわらず、今できること

制度がどう決着しても変わらないのは、雇用終了に至るまでの手続の重要性です。飲食店で優先度が高いものを、4つ挙げます。

1. 就業規則に解雇の事由を定める

常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が労働基準法第89条により義務づけられています(e-Gov法令検索)。同条が定める「退職に関する事項」には、解雇の事由が含まれます。

2. 指導と面談の記録を残す

勤務態度や能力を理由に雇用終了を検討する場合、それまでにどのような指導を行ったかが判断材料になります。記録がなければ、改善の機会を与えたかどうかを説明できません。

3. 解雇以外の選択肢を先に検討する

配置転換、勤務時間の調整、業務内容の変更など、雇用を継続したまま取れる方法があります。これらを検討した記録があること自体が、手続の適切さを示す材料になります。

4. 判断に迷った段階で相談する

解雇の可否は、個別の事情によって判断が分かれます。手続を進めてから相談すると、選べる選択肢が減っていることがあります。

制度の議論は、今後も続きます。しかし、労使双方が納得できる形で雇用関係を終えるために必要なことは、制度の内容にかかわらず変わりません。事前に手続を整えておくことが、結果として双方の負担を軽くします。

よくある質問

解雇の金銭解決の制度は、いつから始まりますか?

開始時期は決まっていません。2025年11月18日の労働政策審議会労働条件分科会で、厚生労働省が2026年に検討会を設置する方針を示した段階です。制度を導入するかどうかも含めて、これから議論が行われます。

お金を払えば従業員を解雇できるようになるのですか?

これまでの議論の中心は、労働者が金銭の支払いを請求できる仕組みでした。使用者からの申立てによる制度については、現状では容易ではない課題があるとの指摘があり、今後の検討課題とされています。会社が金銭を支払えば解雇できる制度が決まったわけではありません。

解決金の金額はいくらになりますか?

金額は決まっていません。2026年に新設される検討会で、解決金の額の水準を含めた制度設計が検討対象になるとされています。2022年の報告書では、勤続年数や年齢、給与額などを考慮する算定の考え方が整理されました。

現在の解雇のルールは変わりましたか?

変わっていません。労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。労働基準法第20条により、30日前の予告または解雇予告手当が必要です。これらは検討会の議論とは別に、現行のまま適用されます。

なぜ解雇の金銭解決が議論されているのですか?

解雇が無効と判断されても、実際には職場に戻らない人が多いためです。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2023年に実施した調査では、解雇等が無効と判断された労働者99人のうち、復職した人は37.4%、復職しなかった人は54.5%でした。裁判で解雇が無効と認められても職場に戻らない状況をどう扱うかが、議論の出発点になっています。

飲食店として、今から準備すべきことはありますか?

制度に対応するための準備は、現時点では必要ありません。ただし、就業規則への解雇事由の記載、指導・面談の記録、解雇以外の選択肢の検討といった手続は、制度の行方にかかわらず重要です。これらは、平常時にしか整えられません。

参考・出典

本記事の作成にあたり、以下の一次情報源を参照しました。最新の情報は、各リンク先でご確認ください。

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