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育成就労の本当のコスト|昇給と日本語教育、判断は11月1日まで

育成就労の本当のコスト|昇給と日本語教育、判断は11月1日まで

2026.10.07

育成就労について、ここまで9月30日の期限、制度の全体像、今いるスタッフの管理をお伝えしてきました。今回で一区切りとして、実際に使う場合の負担の話をします。

2027年4月1日から受け入れるための申請は、2026年11月1日までが原則の期限です。 つまり、使うかどうかを決めるのは、あと3週間ほどということになります。

ただし、11月1日という日付だけを見て慌てないでください。外食業では、この申請の前にもうひとつ手順があります。

受け入れる会社は、まず業界団体である「食品産業育成就労協議会」に加入する必要があります。加入して初めて、育成就労計画の認定申請ができる仕組みです。そして9月時点では、この協議会の加入受付がまだ始まっていません。 開始時期は農林水産省から案内されることになっています。加入証が発行されるまでにも、2〜3か月程度かかるとされています。

つまり、いま急いで書類を作っても、順番として先に進めません。

やるべきことは、案内が来たときにすぐ動けるよう、社内の判断だけを先に固めておくことです。使うのか使わないのか、使うなら何人か、どの店舗か。ここが決まっていれば、受付が始まってから動いても間に合います。

以下は、その判断材料としてお読みください。

  • 育成就労では、外国人が他の会社に移ること(転籍)が認められています。外食業では、最初の2年間はそれを止められます。

  • ただし2年間止めることを選んだ会社は、2年目に給料を上げる義務を負います。

  • さらに日本語の勉強も、会社が用意して、費用も会社が持ちます。

判断材料として、順に見ていきます。

まず、「転籍」という言葉から

技能実習では、実習先を変えることは原則としてできませんでした。育成就労では、ここが変わります。

転籍(てんせき)とは、育成就労で来ている外国人が、途中で別の会社に移ることです。認められるのは、次の2つの場合です。

どんな場合か

中身

やむを得ない事情がある場合

暴行やハラスメント、会社側の重大な違反があったときなど

本人が希望した場合

一定の条件を満たしたとき

このうち「本人が希望した場合」には条件があります。国が決めた外食業のルールでは、同じ仕事の区分の中であること、決められた期間を働き終えていること、そして技能と日本語の試験に受かっていることが必要とされています。

外食業では、最初の2年は移れない

その「決められた期間」が、外食業では2年です。ルールにはっきり「転籍制限期間は2年とする」と書かれています。詳しい基準は、2026年7月10日に公表された外食業の運用要領にまとまっています。

理由も書かれています。外食業では調理・接客・店舗管理が一続きの仕事になっていて、特に接客は日本語や日本の習慣に慣れたうえで、そのお店ごとのメニューや設備を覚える必要がある。だから同じ会社で2年間続けて育てる必要がある、という説明です。

もうひとつ、率直な理由も書かれています。令和7年1月から3月の外食業の求人倍率は、都市部が3.89倍、地方部が4.61倍。地方のほうが人手が足りていません。移動を自由にすると、外国人が都市部に流れてしまう。だから当面のあいだは2年にする、というものです。

地方でお店をされている方には、この2年が実際に効いてきます。

ここが重要:2年を選ぶと、昇給がついてくる

今回いちばんお伝えしたいのは、ここです。

国のルールでは2年と決まっていますが、会社が自分の判断で「うちは1年にする」と決めることもできます。そして、1年より長くする場合には条件がつきます。

ルールにはこう書かれています。毎年、業界の協議会が外食業の昇給率を決めて公表する。転籍を1年より長く止める会社は、その昇給率以上で、2年目の給料を上げなければならない。

「以上」という点が大事です。公表された率が下限であり、それを上回る昇給は当然かまいません。逆に、下回ることは認められません。

整理すると、こうなります。

選んだ期間

会社にとっての意味

1年にする

昇給の義務はつかない。ただし1年で他社に移られる可能性がある

2年にする

2年間は移られない。ただし2年目に、公表された率以上で給料を上げる義務がある

どちらを選んでも、会社に何かしらの負担が出ます。「2年しばれるから、安く長く使える」という制度ではありません。

なお、この昇給率は毎年公表されるもので、この記事を書いている時点ではまだ具体的な数字が出ていません。予算を組むときは、幅を持たせておいてください。

「所定内賃金」という言葉に気をつける

社労士として、ここは必ず確認していただきたい点です。

上げる対象になるのは、所定内賃金(しょていないちんぎん)です。これは、決められた時間働いたときにもらえる給料のこと。残業代・深夜手当・休日手当は含みません。

飲食業は、ここが弱点になりがちです。

たとえば、月の総支給が25万円のスタッフがいるとします。

その中身が、基本給16万円+固定残業代6万円+深夜手当3万円だったとすると、所定内賃金は16万円の部分だけです。総額は同じでも、この部分が薄いお店ほど、昇給の土台が小さくなります。

もうひとつ、現場の問題があります。育成就労の外国人だけ給料を上げて、同じ店で働く日本人スタッフが据え置きだと、店内に説明のつかない差ができます。店長が説明できない給料の差は、必ず不満になります。

やることは、順番が決まっています。

  1. 基本給と手当を分けて書き出し、どこが所定内賃金なのかをはっきりさせる

  2. 固定残業代を使っているなら、その金額と何時間分なのかが、賃金規程と労働条件通知書で一致しているか確かめる

  3. 昇給のルール(いつ・何を基準に・どれくらい)を賃金規程に書く

  4. 外国人だけでなく、お店全体の給料表として矛盾がない形にする

この4つは、育成就労を使っても使わなくても、いずれ必要になる作業です。

もうひとつの負担、日本語の勉強

給料と並んで、会社が負担するのが日本語教育です。

外食業では、達成すべき日本語と技能の水準が段階ごとに決まっています。

時期

日本語

技能

働き始めるまで

A1相当(日本語能力試験のN5など)。または決められた講習を受ける

―

働き始めて1年まで

A1相当

外食業育成就労評価試験(初級)

3年の終わりまで

A2.2相当(N4などが目安)

外食業特定技能1号技能測定試験

厚生労働省の資料では、受け入れる会社が支援に取り組む形とすることが示されています。あわせて関係省庁の資料では、日本語の講習を用意することが会社の義務であり、費用も会社が負担すること、講習はそれぞれ100時間以上必要なこと、オンラインでもよいことが示されています。すでに試験に受かっている人には、受けさせる必要はありません。

必要な時間数は、来日前に講習を受けているかどうかなどで変わります。自社の場合どうなるかは、個別に確認してください。

実際に困るのは、お金より「時間」

費用は、見積もりを取れば分かります。難しいのは、その時間をシフトのどこに入れるかです。

会社が「受けなさい」と指示して講習を受けさせる場合、その時間は労働時間になるのが原則です。労働時間なら、当然、給料を払う必要があります。法定の時間を超えれば、割増賃金もつきます。

飲食店の勤務はランチとディナーの2つの山になりやすく、深夜営業があれば22時以降の割増も絡みます。ここに週に数時間の講習を入れると、こんなことが起きます。

  • 講習の時間を足すと週40時間を超えて、残業扱いになる

  • 変形労働時間制を使っている場合、シフトの組み方が崩れる

  • 「自分で勉強しているだけ」として給料を払わないでいると、実際には会社の指示だった場合に未払い賃金になる

対応の方向は3つです。

  1. 講習の時間を、最初からシフト表に固定の枠として入れてしまう

  2. オンラインの授業を使い、移動時間が出ないようにする

  3. 採用の段階で日本語レベルを条件に入れ、講習の負担そのものを減らす

3つ目は採用のやり方の話ですが、費用への効き方はいちばん大きい選択です。

なお、講習の費用を本人に払わせたり、「3年以内に辞めたら返してもらう」と約束させたりするのは避けてください。労働基準法第16条が、あらかじめ違約金や賠償額を決めておくことを禁じています。

判断する前に、自社の中を見てください

育成就労は、3年間の育成計画を国に提出する制度です。会社の労務の土台がぐらついていると、そもそも計画が書けません。

申請を出すかどうか決める前に、次の6つを見てください。

項目

見るところ

賃金規程

基本給と手当が分かれているか。昇給のルールが書いてあるか

労働時間

変形労働時間制の手続きと実際の運用が合っているか。36協定が実態に合っているか

就業規則

研修や講習について書いてあるか。その時間の扱いを書けるか

労働条件通知書

外国人が読んで分かる形で渡せる体制があるか

住まいと生活

住居の確保、生活の相談役、緊急時の連絡先が決まっているか

店舗間の運用

応援シフトや配置転換のルールが、業態の条件に反していないか

このうち賃金規程と就業規則は、育成就労を使っても使わなくても、いずれ必要になります。10月1日にはパート・アルバイトの労働条件通知書に書く項目も増えました。今なら、まとめて手を入れられます。

連載のまとめ

4回にわたって、育成就労と飲食店の関係をお伝えしてきました。最後に、日付だけ整理します。

日付

何があるか

2026年9月30日

組合・団体の許可申請の目安(過ぎている場合は状況を確認)

2026年11月1日

育成就労計画の申請期限(2027年4月受け入れの場合)。ただし先に協議会への加入が必要で、受付開始は農林水産省の案内待ち

2027年4月1日

育成就労が始まる。同時に、外国人の雇い方を間違えたときの罰も重くなる

育成就労を使うかどうかは、経営判断です。枠は2年で5,300人しかなく、負担も小さくありません。使わないという判断も、十分に合理的です。

ただ、どちらを選んでも、外国人スタッフの管理と賃金規程の整備は必要になります。そこだけは、この秋のうちに手をつけておいてください。

判断に迷われる場合は、お気軽にご相談ください。

参考にした情報源