社会保険
事業主と労働者が収入に応じて保険料を拠出し、いざというときの病気や失業といった生活保障や将来の年金などの生活の安定に備えるために作られた制度をまとめて「社会保険」と呼びます。
労災保険と雇用保険を総称して「労働保険」と呼ぶのに対して、健康保険と厚生年金保険を総称して、狭義に「社会保険」と呼ぶこともあり、ここでは、健康保険と厚生年金保険についてご紹介します。
加入要件
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件
正社員、契約社員、パート、アルバイト等雇用形態のいかんを問わず、以下に該当する労働者はすべて加入の対象となります。
・所定労働日数及び所定労働時間が、一般社員のおおむね4分の3以上であること
・以下のような臨時的な雇用でないこと
→日々雇い入れられる者
→臨時に使用される者で、2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
→季節的業務に使用される者
→臨時的事業の事業所に使用される者
※健康保険と厚生年金保険の加入条件は同一であり、どちらか片方だけ加入するということは基本的にありません。ただし、70歳以上の方は原則として厚生年金を脱退し、健康保険のみに加入することになります。
※また、75歳以上になると後期高齢者医療制度に移行することになるので、健康保険も脱退することになります。
社会保険の扶養
健康保険の扶養
健康保険の被保険者の親族が「被扶養者」として認定されると、健康保険料を支払うことなく、健康保険の給付を受けることができます。
認定の条件は、以下「被扶養者の範囲」を満たすことです。
被扶養者の範囲
(1)主として被保険者に生計を維持されている次の人(別居していても可)
・直系尊属
・配偶者(内縁関係を含む)
・子、孫、弟妹
(2)被保険者と同一の世帯で、主として被保険者に生計を維持されている次の人
・3親等内の親族
・内縁関係にある配偶者の父母及び子(配偶者が亡くなった後も認められる)
生計維持の基準
上記範囲における「生計を維持されている」基準は、次の通りです。
(1)被保険者と同居している場合
年間収入が130万円未満(60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ被保険者の年収の2分の1未満であること
(2)被保険者と別居している場合
年間収入が130万円未満(60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ被保険者からの援助額より少ないこと
※上記でいう年間収入とは、所得税のようにいつからいつまでという期間はありません。就職したとか、退職したとか、パートの収入が月10万円未満になったとか、その時点以降の見込みでの年間収入です。
手続
健康保険被扶養者(異動)届を提出します。
一定の親族については、収入の証明など確認書類を添付する必要があります。
厚生年金保険の扶養(国民年金第3号被保険者)
厚生年金の被保険者に生計を維持されている配偶者であって20歳以上60歳未満の人は、「国民年金第3号被保険者」となります。
国民年金第3号被保険者は保険料の支払いが免除される一方、年金の受給資格や年金額を計算する上では保険料を納めたものとみなされます。
「生計維持」の基準は、上記健康保険と同様です。
手続
国民年金第3号届を提出します。健康保険の扶養届と同時に手続をしますので、健康保険の扶養の認定がおりれば、国民年金第3号被保険者としての生計維持関係も自動的に認められます。
社会保険料
社会保険料は
・健康保険料
・介護保険料
・厚生年金保険料
・児童手当拠出金
により構成されます。
保険料額
給与に係る保険料は、被保険者の標準報酬月額に保険料率を乗じて得た額を、賞与に係る保険料は、被保険者の標準賞与額に保険料率を乗じて得た額を、それぞれ被保険者と事業主が折半負担します。
※40歳以上65歳未満の被保険者は、健康保険の一般保険料に介護保険料を上乗せした額を、健康保険料として納めることになります。
※健康保険料率は、都道府県ごとに定められています。他府県の料率については全国健康保険協会のホームページをご参照ください。
児童手当拠出金
厚生年金保険の適用事業所の事業主は、児童手当法に基づき、児童手当の支給に要する費用および児童育成事業に必要な費用を、その事業所に児童手当を受給している人がいるかどうかに関係なく、被保険者全員について、児童手当拠出金として拠出することになっています。
保険料の控除
社会保険料は、事業主負担分と被保険者負担分を合わせて、事業主が翌月末日までに納付する義務を負います。
そのため事業主は、被保険者の当月支給する給与から、前月分の被保険者負担分の保険料を控除することになっています。
保険料の納付
給与に係る社会保険料は、被保険者の資格を取得した日の月から、資格を喪失した日の前月までの分を、月単位で納めます。
月の途中で資格喪失した場合は、その月の保険料の納付は必要ありません。ただし、月末退職の場合は、資格喪失日が翌月1日になるため、退職月の保険料が徴収されます。
なお、同一の月に被保険者資格を取得し喪失した場合は、たとえ月末まで在籍してなくても1ヶ月分の保険料が徴収されます。
賞与については、資格を取得した日以降に支給される分から社会保険料の対象となり、資格を喪失した日の月に支給される分から社会保険料の対象となりません(月末退職を除く)。
標準報酬月額
社会保険では、被保険者が事業主から受ける報酬を、いくつかの幅に区分した仮の報酬月額にあてはめて、毎月の保険料や保険給付の計算をするときの基準とします。
これを標準報酬月額といいます。
標準報酬月額は、以下の時期にのみ決定もしくは改定されます。
資格取得時決定 | : | 入社した時に |
定時決定 | : | 毎年決まった時期に |
随時改定 | : | 報酬が大幅に変動した時に |
育児休業等終了時改定 | : | 育児休業者が職場復帰した時に |
毎月の給料の支払額が残業時間等によって変動しても、標準報酬月額は変更されません。
資格取得時決定
会社に入社して被保険者の資格を取得した人は、「資格取得届」によって標準報酬月額が決定されます。
まだ報酬が支払われていないので、支払われるであろう見込みの報酬月額により標準報酬月額算出します。なお、残業手当についても、同様の業務に従事している人の平均残業時間により算出して、見込みの報酬月額に加算します。
定時決定
毎年7月1日~7月10日の間に、その年の4月・5月・6月に支給された報酬月額を、「算定基礎届」により届け出ることによって、その年の9月分から翌年8月分の標準報酬月額を決定します。 (その間に随時改定や育児休業等終了時改定に該当する場合を除く)
定時決定には、その年の5月31日までに被保険者の資格を取得した人で、同年7月1日現在、被保険者である人全員が対象となります。
ただし、次に該当する人は対象から除外されます。
・その年の6月1日から7月1日までの間に被保険者となった人
・その年の7月から9月までのいずれかの月に、随時改定または育児休業修了時改定が行われる人
随時改定
昇給や降給になどにより、報酬の額に大幅な変動があった場合、定時決定を待たず、「月額変更届」により報酬月額の改定を行います。
なお、随時改定は以下の全てに該当するときに行われます。
・昇給や降給などで固定的賃金に変動があった
・変動月以後3ヶ月間の支払基礎日数が17日以上あった
・変動月以後3ヶ月間の報酬の平均額が該当する等級と、現在の等級との間に2等級以上の差があった
※「残業手当」「日直手当」「精勤手当」などといった稼働実績などによって支給される、非固定的賃金の変動のみでは随時改定は行われません。
育児休業等終了時改定
育児休業を終了して職場復帰した際に、短時間労働制の適用を受けたり残業をしなくなったりして賃金が下がった場合、随時改定に該当しなくても、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、標準報酬月額の改定が行われます。
育児休業等終了日の翌日の属する月以後3ヶ月の平均額をもって改定しますが、随時改定と異なり、支払基礎日数が17日未満の月があっても、2等級以上の変動がなくても実施されます。
標準賞与額
年に3回以下支払われる賞与について、1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」として、これに給与と同様の保険料率を乗じて社会保険料を算出します。
標準賞与額には、それぞれ以下の通り上限が設定されています。
・健康保険 → 年度(毎年4月1日から翌年3月31日)累計で540万円
・厚生年金保険 → 1ヶ月につき(同じ月に2回支給されたときは合算して)150万円
※事業主は、賞与を支給したとき、「被保険者賞与支払届」に被保険者ごとの標準賞与額を記入して、「総括表」と合わせて提出します。
※年に4回以上支払われる賞与については、標準報酬月額の対象となるため、賞与支払届を提出する必要はありません。
健康保険の給付
健康保険の給付の種類は、全国健康保険協会のホームページで紹介されています。
ここでは、資格喪失後の給付について紹介します。
資格喪失後の給付
退職後においても、一定の条件のもとに健康保険の保険給付が行われます。
保険給付を受けている人が資格を喪失した場合(継続給付)
資格を喪失する日の前日までに継続して1年以上被保険者であった人は、資格喪失後もすでに受給していた「傷病手当金」及び「出産手当金」を引き続き受けることができます。
資格を喪失した後に保険給付を受ける事由が生じた場合
(1)次の場合は埋葬料または埋葬費が支給されます。
・上記継続給付を受給していた人が亡くなったとき
・上記継続給付を受けなくなってから3ヶ月以内に亡くなったとき
・被保険者が資格を喪失してから3ヶ月以内に亡くなったとき
(2)資格を喪失する日の前日まで継続して1年以上被保険者であった人が、資格喪失後6ヶ月以内に出産したときは、出産育児一時金が支給されます。
厚生年金保険の給付
厚生年金保険の被保険者は同時に国民年金の被保険者であり、厚生年金から支給される年金は、加入期間とその間の収入に応じて計算される報酬比例の年金となっていて、基礎年金に上乗せする形で支給されます。
老齢年金
老齢基礎年金
保険料を納めた期間、保険料を免除された期間及び合算対象期間(カラ期間)とを通算した期間が、原則25年間以上ある場合に支給されます。
20歳から60歳になるまでの40年間保険料を納めた人は、65歳から満額の老齢基礎年金を受けることができます。
老齢基礎年金の受給額は、以下の計算式により算出されます。
779,300円(平成29年度金額)×[保険料納付月数+(保険料全額免除月数×8分の4)+(保険料4分の1納付月数×8分の5)+(保険料半額納付月数×8分の6)+(保険料4分の3納付月数×8分の7)]÷加入可能月数×12
老齢厚生年金
厚生年金の被保険者期間があって、老齢基礎年金を受けるのに必要な資格期間を満たした人が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金が支給されます。
ただし、当分の間は、60歳以上で「老齢基礎年金を受けるのに必要な資格期間を満たしていること」「厚生年金の被保険者期間が1年以上あること」という条件を満たしている人には、65歳になるまで特別支給の老齢厚生年金が支給されます。
障害年金
障害基礎年金
国民年金に加入している間に初診日のある病気やケガで、法令に定められた障害等級表(1級・2級)による障害の状態にある場合、障害基礎年金が支給されます。
ただし、「初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について保険料が納付または免除されていること」、または「初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと」が求められます。
支給額は、障害等級1級に該当する場合974,125円、2級に該当する場合779,300円です。
また、18歳到達年度の末日までにある子がいる場合は、子の人数によって加算が行われます。
障害厚生年金
厚生年金に加入している間に初診日のある病気やケガで、障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。
ただし、障害基礎年金の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
また、障害の状態が2級に該当しない程度の障害のときは、3級の障害厚生年金が支給されます。
遺族年金
遺族基礎年金
国民年金に加入中の人が亡くなった場合、その人によって生計を維持されていた「18歳到達年度の末日までにある子のいる妻」または「子」に遺族基礎年金が支給されます。
ただし、「亡くなった日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること」、または「亡くなった日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと」が必要です。
支給額は、子が1人の妻の場合1,003,600円(779,300円に224,300円の加算)です。
遺族厚生年金
厚生年金に加入中の人が亡くなったとき(もしくは加入中の傷病がもとで初診日から5年以内に亡くなったとき)、その人によって生計を維持されていた遺族に遺族厚生年金が支給されます。
ただし、遺族基礎年金の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
受給権の優先順位は、1:配偶者または子、2:父母、3:孫、4:祖父母となっています。